前回は、従業員1,001人以上の大企業を対象に、56業界に分類したうえで、正社員における女性従業員比率、女性管理職比率の業界毎の単純平均値の比較を行いました。今回は業界数を11に絞って同じ軸で分析を行います。製造業、非製造業の対比に着目し、1,018社を次の11業種に分類しました。
製造業(4:グラフ上の赤いドット): 素材製造、機械・輸送機器製造、電子機器・精密機械製造、生活関連・その他製造
非製造業(7:グラフ上の緑のドット): 金融、卸小売、情報・通信、運送・運輸、電気・ガス、建設、他サービス
【分析結果】
11業界をグラフ上の位置で、3つのグループに括ってみました。縦軸、横軸でグループの境界線が重なることなく、きれいに3つに分かれました。それぞれ右上から左下に、高比率グループ、中比率グループ、低比率グループと仮に名づけます。すると、製造業、非製造業で、次のような特徴が見て取れます。
製造業: 低比率グループに4業種中3つが集中している。残りの1つも中比率グループで、高比率グループには1つも入っていない → 全般的に比率が低い傾向にある
非製造業: 3つのグループにほぼ均等に分布している → 業種によるばらつきが大きい
こうして見てみると、女性管理職比率の目標値の設定に際し、「民間企業」として一括りにして、一律な値を設定することには無理があるようにも思えます。業界によって、一律の目標値に対する「ハンデキャップ」の大きさが異なるとも解釈できるからです。
目標数値という観点から、特に着目すべきは、低比率グループの中で左下に密着してプロットされている、「ハンデキャップ」が相対的に大きい4つの業界だと思われます。
製造業: 機械・輸送機器製造、素材製造
非製造業: 建築、電気・ガス
仮説として、これらの業界に共通する傾向は次のようなものだと考えられます。これらは、女性従業員・管理職にとって就業上不利な条件と考えられます。
社内にいわゆる「理系」の職種が多い
重いもの、大きなもののハンドリング、または、屋外労働が関係している
取引先企業が同じように低比率グループに属する傾向にある (お互いに「お客様が取引窓口やコンタクト相手として男性社員を求めているから」と言い合っている)
では、こうした低比率グループは女性活躍推進において、どうすればいいのでしょうか? 以前からブログで述べているように、トップ・経営幹部の役割が大きいと思っています。逆に言えば、女性社員の個人的な頑張りは大事ですが、それだけでは山は動きません。トップ・経営幹部ができることの例を挙げます;
社内に向けてコミットメントを示す; 年頭あいさつ、社内報、メディアインタビュー、ウェブサイトなどで女性活躍推進の自社にとっての意義や経営の本気度を発信する
女性活躍推進を女性社員や「ダイバーシティ推進室」に閉じた改革にせず、全社のアジェンダに押し上げる; 政府の掛け声に対する「やらされ感」で取り組むのではなく、女性活躍推進を男性も含めた全社員の仕事の仕方・プロセス変革のチャンスとして前向きに捉える気構えが必要です
業界の中で体質の変革を促す; この意味では、業界のリーディング企業の役割が大事です。また、相対的に取引上の力関係が上の業種、企業の影響力も重要です。リーディング企業、力のある企業がイニシアティブをとることにより、業界全体の「古い慣習」の刷新に拍車をかけることができると考えられます
Value & Visionのお客さまで低比率グループに属しているところが複数社あります。その中で、実態として、トップ・経営幹部の強いリーダーシップと現場の地道な努力の併せ技で山が音を立てて動き始めているところもやはり複数社あります。低比率グループだからといって、女性活躍推進において及び腰になる必要はありません。逆に、低比率グループだからこそ、「のびしろ」のポテンシャルは大きいのです。
今回は1,018社のデータをもとに、業界の括りをこれまでよりも大きくして11業種に絞り、再度、女性従業員比率・女性管理職比率の2軸で分析をしてみました。特に製造業と非製造業の対比に着目しました。これまでの3回の分析よりも、ビッグ・ピクチャーからの示唆が得られたと思いますが、いかがでしょうか? みなさんのご参考になれば幸いです。
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2016年7月15日
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徳田亮
経営視点から斬る「女性の活躍推進企業データベース分析」業界比較④
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