今回、次回の2回にわたって有名な「M字カーブ」を取り上げます。「M字カーブ」は女性の活躍推進におけるキーワードのひとつとして、経営者にとっても必修の概念です。「なぜM字カーブというか?」、は自明です。2014年、1975年の折れ線グラフをご覧になってください。形状がアルファベットのMの字になっているのがわかります。
このグラフは横軸に年齢層、縦軸に当該年齢層の人たちの労働力率を示しています。縦軸の労働力率とそれに関連する用語の政府の定義は次の通りです。
労働力率とは15歳以上の全人口に占める労働力人口の比率 (このグラフでは女性のみ)
労働力人口とは、就業者と完全失業者の合計
- 就業者には、家事や通学の傍ら仕事をしている兼業者を含む
- 完全失業者とは、収入になる仕事を少しもしなかった人のうち、仕事に就くことが可能であって、かつ、公共職業安定所に申し込むなどして積極的に仕事を探していた人非労働力人口とは、(仕事を兼業しない)家事、通学、その他への従事者
女性に限って平たく言うと、いわゆる専業主婦は労働力人口には含まれないが、パートをしている主婦は含まれるということです。また、これまでのブログでは「女性就業者比率」という言葉を使ってきましたが、「女性労働力率」との明確な違いは、後者が上記「完全失業者」を含んでいることです。
なぜM字になるか? 女性に特有の現象で、男性ではなりません。理由は想像に難くありません。厳密ではありませんが、大まかには次のように説明できます。
M字の立ち上がり部分は、学校を卒業して就職することを示しています。15-19では、中学高校、専門学校など、20-24では大学、25-29では大学院の数字が累積されていきます
M字の最初の落ち込み部分(2014年のグラフの矢印部分)は結婚、出産による退職
M字の2番目の立ち上がり部分は、育児が一段落した段階での再就職、または職場復帰
M字の再度の落ち込み部分は、いわゆるリタイヤです
このグラフを読む上での着眼点は3つあります
①縦軸における、カーブ全体の位置
②縦軸における、Mの谷間部分の深さ
③横軸における、Mの谷間部分の位置
1975年とほぼ40年後である2014年を比較してみましょう。①の観点からは、カーブ全体が上方に大きく移動しており、働く女性がこの40年間で増えたことが見て取れます。25歳~49歳のレンジでは、20ポイント以上上昇しています。実際、女性の就業率は今日世界の先進国とほぼ変わりません。(前回、「女性管理職比率: 日本の女性活躍推進における位置づけ」で述べたように、日本における問題は、女性の管理職比率の低さです) ②の観点からは、谷の深さが40年間で、1975年の約20ポイントから2014年の約10ポイントへ半減したことがわかります。 これにより、結婚、出産でも退職しない女性が増えてきている、と推定できます。また、③の関連からは、Mの谷間部分が右に大きく移動しており、日本における晩婚化と出産の高年齢化を暗示しています。
では、外国と比べるとどうでしょうか? まず、米国と比べてみます。
2016年4月28日
投稿者:
コラム
カテゴリ:
徳田亮
経営視点から斬る「M字カーブ」①
①の縦軸におけるカーブの位置は、40年前も今もほぼ日米同じです(赤・緑の実線、破線ともに重なりが多く見られます)。違うのは②の縦軸における谷の深さです。日本も米国も40年間で谷が浅くなってきているのは共通ですが、深さそのものが1975年、2014年それぞれ(実線、破線それぞれ)で米国の方が浅くなっています。米国においては③の横軸の谷の位置自体、2014年では特定できないほどです(緑の実線)。
女性活躍先進国であるスウェーデンと比べると違いはさらに顕著です。グラブ上部、灰色の線を見てください。①の縦軸におけるカーブの位置そのものが高く、②や③で言う「谷」が消滅し、むしろ「山」になっています。結婚、出産に関係なく、20歳代から40歳代まで女性の労働力率が逓増しています。
【経営者にとっての示唆】
先に挙げた①②③の3つの着眼点のうち、経営者にとって特に重要なのは、②のMの谷間部分の深さの問題だと考えます。理由は2つあります。
この谷間現象が、20代後半から30代前半という、中間管理職の候補者プールを狭めているから(最初のグラフのピンクの矢印部分)
①③とは異なり、②に関しては個社レベルで、退職者の「引き止め」という形で対応が必要かつ可能であると推定できるから (①については、「女性就業者比率」として見ると日本はすでに国際水準に達しているし、③の結婚・出産のタイミングに関しては、企業が個人に関与することではない、と考えられます)
では、経営者として具体的に何をすればいいのでしょうか? 次回、M字カーブについて更に考察を深めたうえで、再度戻って、経営者にとっての示唆を考えたいと思います。
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