Photo by Ryo Tokuda
前回はスポンサーシップの定義や意義などについてお話をしました。今回は、それを受けて、具体的な取組み方と取組み上の課題についてお届けします。
スポンサーシップへの取組み方: スポンサーの役割
スポンサーの役割は、主に、プロテジェ*(スポンサーシップを受ける人)への働きかけ(成長の後押し)と周囲の人間への働きかけ(環境づくり)の2つです。
プロテジェ本人への働きかけ(成長の後押し):
プロテジェの成長課題を明確にする
プロテジェに成長の機会を与える
周囲の人間への働きかけ(環境づくり):
不当な批判やアンフェアな評価からプロテジェを守る
プロテジェの存在感を高める
*注)当ブログでは、スポンサーシップを受ける人のことを「プロテジェprotégé」としています。現時点ではOxford Dictionaryなどの辞書には掲載されていませんが、「スポンシーsponsee」と表現する場合もあります
メンター制度との比較で特徴的なのは、「周囲の人間への働きかけ(環境づくり)」という点です。スポンサーシップ制度では、相手に対する働きかけのみならず、その環境づくりにも配慮する必要があるのです。
日本企業におけるスポンサーシップ取組みの着眼点
1. 誰を選ぶのか
まず、当たり前のようですが、スポンサーシップの対象者が、「投資対象にふさわしいポテンシャルのある人材」であることが重要です。前回のブログで、スポンサーは「役員や部長クラスの上級管理職」が任命される、と述べました。スポンサーという社内の重鎮の時間と労力は、目には見えませんが、「時給×投入時間」で考えると、本人にとっても会社にとっても文字通りの大きな「投資」です。
また、「誰が選ばれたのか」ということは、昇格・昇進と同様に、会社がどのような人材を評価しているのかという「メッセージング」効果を全社員に対して持っています。社内で間違ったロールモデル像を作らない、という意味でも軽はずみな人選は禁物です。
スポンサーシップは、「上位職への引上げ支援」です。数合わせや、「数撃てば当たる」的な発想で、上位職へのポテンシャルがみえない人を対象者としては、「投資」、「メッセージング」両方の観点で得策とは言えません。
2.誰が選ぶのか
欧米のグローバル企業の中には、制度のあるなしにかかわらず、組織の長が、自発的にスポンサーとなり、自らの後継者候補を選抜し、育成責任を担うことがあります。日本企業の場合、(まだ事例自体が少ないのですが)人事部門が主体となって、「スポンサーシップ制度」を設け、その枠組みの中で運営するというケースが多いと思われます。
では、「スポンサーシップ制度」においては、誰が育成対象者(プロテジェ)を選ぶのでしょうか?大きくは、2つの方法が考えられると思います。
人事部門(または経営幹部層)が育成対象者を人選して、後から、スポンサーを任命する、又は募る
人事部門が各部門の長に働きかけ、各部門から育成対象者とスポンサーの候補を出してもらう (最終的には人事部門が承認する)
どちらの方法を取るかは、引き上げるポジションによって変わってくると思います。部門に閉じたポジションであれば、各部門のコミットメントを得やすい後者に利があるかもしれません。経営幹部層及びそこに近いポジションであれば、後者を選択できないので、必然的に前者となると考えます。
3.当事者たちは具体的に何をするのか
前章で「スポンサーの役割」2つを述べました。しかし、スポンサーからは、「これを聞いても、具体的に何をすればよいのか?イメージが湧きにくい」という声があがってきます。
それもそのはずです。日本企業では、特に現管理職の社歴においては、現場のOJTは部下が「技を盗む」ことが主体で事実上の育成不在、社員教育はOff-JTを中心に、人事部門が主体で行ってきたというのが実態ではないでしょうか? そうだとすれば、スポンサーは自分の過去をたどっても、人材育成のベストプラクティスにたどり着くことができません。
従い、日本企業がスポンサーシップを導入する際には、人事部門が主体となり、具体的な取組み例やto-doの「メニュー」を用意するなど、かゆいところに手の届く手厚い対応をすることが求められます。ひとことで言うと「具体策支援」です。仕組みを作って当事者任せにするだけでは制度が動き出しません。
「具体的に何をするのか」という点で、人事部門の具体策支援とならんで重要なのが、当事者たちのコミュニケーションスタイルです。メンター制度でも同じことが言えるのですが、スポンサー・プロテジェ双方が意識してオープンなコミュニケーションをとることが、制度を成功に導くうえで極めて重要になります。具体的な留意点は次のとおりです;
スポンサー: プロテジェが安心して課題を共有できるよう配慮し、プロテジェに率直なフィードバックを行うこと
プロテジェ: 受け身にならずに自らフィードバックを求め、フィードバックを真摯に受け止め疑問があれば遠慮せずに尋ねること
スポンサーシップ制度を効果的に運用するうえでは、人事部門の具体策支援、当事者のオープンなコミュニケーション、この2つが両輪として同時に回ってゆかねばなりません。
4.当事者たちの「本気度」をどう担保するのか
言うまでもなく、スポンサー・プロテジェ双方が目的に向けてコミットすることが求められます。ここでは、そのコミットメントをくじく可能性のある要因についてお話します。
日本企業の多くは、社員を平等に処遇することに価値をおいてきました。スポンサーシップのように、選抜された社員の成長加速のために特別な施策を講じるというアプローチ自体が、企業風土に馴染みにくいと言えます。スポンサーを任命された上級管理職は、「特定の部下だけを特別扱いすることへの抵抗感」を覚えます。スポンサーシップを受けるプロテジェにとっても、「特別扱いされることの居心地の悪さや他の人への遠慮」が伴います。この「抵抗感」や「遠慮」といった課題は恐らく日本に固有かつ、日本におけるスポンサーシップ導入の最大の障壁になっていると思います。
この課題に対処するには、スポンサーシップを単独の施策として展開するのではなく、トップの理解とコミットメントのもと、包括的なダイバーシティ推進(あるいは女性の活躍推進)施策の一つとして進めることが肝要です。当然のことながら、まず、当事者たちが、「スポンサーシップの目的と意義」を理解し納得していなければなりません。しかし、それだけでは不十分で、社員全員が「自社にとって、なぜ女性人材の育成の促進が必要なのか?」を理解し、受け入れる必要があります。そうすれば、「そのために有効な施策」として選抜された女性を対象としたスポンサーシップへの受容性を高めることができます。その具体的なやり方のひとつとして、職場単位での説明会やワークショップの企画、実施が考えられます。弊社のプログラムの例としては、「ダイバーシティ体感ワークショップ」があります。
逆にやってはいけないのは、女性管理職比率という数字の引上げに目を奪われた「泥縄」的なスポンサーシップ制度の導入です。前述のような包括的な手続きを踏まずに、職場の地合いが「冷めた」段階で導入すると、当事者たちに「えこひいき」のレッテルが貼られ、周りの反発を買うリスクがあります。「本気度」を担保できないまま、導入1期生でとん挫、という結末が目に浮かびます。
早急にスポンサーシップを導入したいため、導入を公表せずに当事者間で内々に進める企業もあるかもしれません。しかし、そのアプローチはお薦めしません。先述の当事者の「抵抗感」「周囲への遠慮」という心理的バリアがある状態では、当たり障りのない限定的なアクションに留まる可能性が高いからです。
スポンサーシップ制度の成功のカギ
最後に、これまで述べてきたことのまとめも兼ね、スポンサーシップ制度の成功のカギを3項目にまとめます。
成功のカギ① スポンサーシップを単独の施策として展開するのではなく、包括的なダイバーシティ推進(あるいは女性の活躍推進)施策の一つとして進めること
スポンサーシップの目的・意義・具体的な取組みを当事者が理解し、スポンサー・プロテジェ双方が目的に向けてコミットすること
社員全員が「自社にとって、なぜ女性人材の育成の促進が必要なのか?」を理解し、受け入れること (そのためには職場単位での説明会やワークショップが有効)
成功のカギ② 上位職へのポテンシャルのある人材をプロテジェとして選抜すること
「投資」、「メッセージング」の観点から相応しいか、を熟慮すること
数合わせや、「数撃てば当たる」的な発想に走らないこと
成功のカギ③ 人事部門の具体策支援と当事者のオープンマインドが両輪として機能すること
人事部門が、スポンサーが具体的に何をすればいいのかについて、「具体策支援」として、スポンサーに十分な情報を提供すること
スポンサー・プロテジェ双方が意識してオープンなコミュニケーションをとること
なお、Value&Visionでは、包括的なダイバーシティ推進(あるいは女性の活躍推進)施策の導入のお手伝いをしています。その中で、「ダイバーシティ体感ワークショップ」の企画・実施や、スポンサーシップ制度導入のご支援として、仕組みづくりや運用のアドバイスなどもご提供しています。
前回、今回の2回に分けて、スポンサーシップ制度について述べてきました。導入を検討されている方々のご参考になれば幸いです。
関連記事リンク:
2016年8月5日
投稿者:
コラム
カテゴリ:
近藤美樹/徳田亮
女性活躍推進における「スポンサーシップ制度」②
コラム
アーカイブ
カテゴリー
コラム
Value&Vision の徳田亮と近藤美樹がグローバルリーダー育成、ダイバーシティ&インクルージョン推進、女性リーダー育成、経営コンサルティングなどに関する内容を、エッセイ、分析、対談など、さまざまな形式で綴ってゆきます。