Photo by Ryo Tokuda
今回は、女性人材の育成施策として、最近関心が高まっている「スポンサーシップ」についてご紹介します。次回と2回に分けてお届けします。
スポンサーシップとは
2000年代に入り、欧米のグローバル企業では、経営を担うリーダー候補の獲得・育成ニーズが高まり、「タレントマネジメント」という新しい人材マネジメントの取組みが生まれました。「タレントマネジメント」とは、「タレント」すなわち、会社を担う「人財」に対する、採用、育成、定着、登用といった一連のマネジメントを、人事部門による閉じた取組みではなく、組織的かつ継続的に行うものです。代表的な取組みのひとつに、計画的な次世代リーダーの育成があります。ポテンシャルの高いリーダー候補を選抜し、個別のニーズに対応した早期育成を行います。
リーダー育成の取組みとして「スポンサーシップ」というアプローチが注目されるようになりました。スポンサーシップは、組織に影響力をもつ人(=スポンサー)が、選抜された対象者(=プロテジェ*。スポンサーシップを受ける人のこと)を特定のポジションに引きあげるための個別支援をする、というものです。例えば、グローバル企業の中には、事業部長が自らの後継者候補の育成責任を担うところがあります。この場合、事業部長がスポンサーとなり、後継者候補がプロテジェとなります。スポンサーシップを「制度」として公表・運用している企業もあれば、公表せずに実態として機能させている企業もあります。
*注)当ブログでは、スポンサーシップを受ける人のことを「プロテジェprotégé」としています。現時点ではOxford Dictionaryなどの辞書には掲載されていませんが、「スポンシーsponsee」と表現する場合もあります
スポンサーとメンターの違い
女性人材の育成に積極的に取り入れられている人事施策に「メンター制度」(メンタリング)があります。メンター制度では、知識や経験が豊富なメンターが、まだ十分な経験がないメンティー(メンタリングを受ける人)に対して助言や支援を行います。
スポンサーとメンターの最も大きな違いは、スポンサーには、プロテジェを昇進・昇格へ導くという明確なゴールがあり、育成責任が伴うことです。従い、スポンサーは、育成のための場を提供する権限や昇進・昇格の意思決定に影響力をもつ人にしか務まりません。そのため、通常スポンサーには、役員や部長クラスの上級管理職が任命されます。一方、メンターがメンティーに提供するものは、悩みに対する助言や心理的なサポートです。課題解決の主体となるのはメンティー本人なので、スポンサーに比べてメンターは、より広範囲からの選出が可能です。メンターはメンティーと所属する部門が異なっていても構いません。むしろ、直接の利害関係のない他部門からメンターを選ぶことの方が多いようです。また、管理職ではない社員でも、メンティーにアドバイスができる人であればメンターは務まります。誤解を恐れずに言うと、スポンサーが子の教育に責任を負う親であるのに対し、メンターは困ったときに頼りになる親戚のおじさん・おばさんに相当すると考えるとイメージしやすいのではないでしょうか。
スポンサーシップの目的と効果
スポンサーシップから恩恵を受けるのは、スポンサーシップを受ける人(プロテジェ)だけではありません。会社やスポンサー自身にも効果があります。会社、スポンサー、プロテジェにとってのスポンサーシップの効果は、次の通りです。
会社にとっての効果:
コア人材の育成を加速させる
育成文化を醸成する
スポンサーにとっての効果:
自分の後継者やフォロワーを育てる
視野を広げる
育成力を向上させる
育成者としての達成感を得る
プロテジェにとっての効果:
視座を高める
仕事を通じ成長の機会を得る
昇進のための準備を加速する
女性人材育成におけるスポンサーシップの意義
とりわけ女性人材育成にスポンサーシップが有効だと言われるのは、なぜでしょうか?トップビジネススクール出身者を対象とした欧米の調査結果をご紹介します。
【出所:Why Men Still Get More Promotions Than Women by Herminia Ibarra, Nancy M. Carter and Christine Silva (HBR Sep. 2010)】
初期の調査で、メンタリングが女性の昇進に有利に働いていないことが明らかになりました。
調査対象者の中で、メンタリングを受けていた人は、男性より女性のほうが多かった
しかし、2年後までに昇進していた人は、女性より男性のほうが多かった
そこで、メンタリングのあり方や効果の男女差を追加調査しました。その結果、次のような傾向が明らかになりました。
男性のメンターは、上位職で組織に影響力のある人であり、昇進に向けたアドバイスや直接的な後押しをしていた
女性のメンターは、さほど上級職ではないケースが多く、昇進に向けた直接的な支援をすることはほとんどなかった
つまり、男性についていたメンターは、助言や心理的サポートを行うメンターではなく「スポンサー」として機能していたのです。一方、女性は、最もスポンサーが必要な昇格候補となる時期に、自力でスポンサー(スポンサーとなるのは主に男性経営層)を見つけることができないことがわかりました。男性経営層は、少数派の女性を候補者に選択することにリスクを感じ、自分と似たような人(=男性候補者)を支援するからです。
そのため、企業が女性人材の育成(特に上位職への登用)を促進するには、意図的に女性にスポンサーをアサインすること、すなわちスポンサーシップを仕組みとして運用することが必要なのです。実際、複数の大手グローバル企業が、女性リーダー育成プログラムの一環として、スポンサーシップを導入しています。
今回はスポンサーシップの定義、メンターとの違い、目的と効果、女性人材育成におけるスポンサーシップの意義についてお話をしてきました。次回は実際の取組み方や取組み上の課題についてお話をさせて頂きます。
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2016年7月26日
投稿者:
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カテゴリ:
近藤美樹
女性活躍推進における「スポンサーシップ制度」①
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