前回に引き続き、厚生労働省のテータベースの分析です。この面積グラフもあるお客様の役員向けセミナーで使用したものに一部修正を加えたものです。
前回は、業界ごとに、女性従業員比率と女性管理職比率を、XY2軸でプロットして2軸の相関を見ました。今回は、女性管理職比率に絞って、次の3分類における業界内での企業数構成比を出し、業界間比較、業界横断比較を行いました。
女性管理職比率が;
30%以上の企業 (赤で色付け: グラフ内上部)
1%未満(ほぼゼロ)の企業 (緑で色付け: グラフ内下部)
上記の中間(つまり1%以上30%未満)の企業 (灰色で色付け: グラフ内中央)
横軸は、業界内での分析対象企業数の比率を、上の3つの切り口で色分けしています。例えば、グラフ最下部の「金属製品」では、横幅を見ると、業界内企業の大半が緑で、残りが灰色、赤は全くないことがわかります (数値としては、緑の企業数が75%、灰色25%、赤0%です)。
縦軸は、縦幅が業界間の企業数の比率を示しています。例えば、グラフ下部の3業界では、「輸送用機器」と「建設業」は分析対象企業数がほぼ同じで、「金属製品」はかなり少数であることがわかります (数値としては、「輸送用機器」「建設業」「金属製品」の順に、全体の企業数の6%、6%、1%です)
縦軸の業界の並べ方は、次の順にソートした結果となっています。
赤が1社でも含まれる業界を、赤の業界内比率が高い順に「降順」ソート
残りの企業につき、緑が1社でも含まれる業界を、緑の業界内比率が低い順に「昇順」ソート
残った上下の真ん中部分、灰色のみの業界は、女性管理職比率の平均値が高い順に「降順」ソート
【分析結果】
業界毎の色分けは次のようになりました。一瞥しただけで、赤が含まれる業界は少なく、灰色と緑の2色の業界が企業数で半分強であることが見て取れます。詳細は次のとおりです (グラフ右側)。
赤が含まれる業界 11業界、 全企業数(面積全体)の27%
灰色のみの業界 11業界、 全企業数(面積全体)の19%
灰色と緑の業界 19業界、 全企業数(面積全体)の54%
(合計、41業界、100%)
30%を超えている企業が1社でも含まれている業界は11業界、企業数ベース(赤のみではなく、業界内の企業をすべて含む)では全体の約4分の1しかありません。
上位3業界、下位3業界の顔ぶれを見てみましょう (グラフ左側の業界名)。
上位3業界(上から): 介護・育児、アパレル小売、化粧品
(前回の平均値順位: 介護・育児、化粧品、アパレル小売)下位3業界(下から): 金属製品、建設業、輸送用機器
(前回の平均値順位: 金属製品、鉄鋼、建設業)
想像どおり、ほぼ前回の業界内単純平均値の順位と顔ぶれが一致します。並び順が若干異なるのと、下位3業界で輸送用機器が鉄鋼と入れ替っているだけです。
業界横断で全体を見ると、女性管理職比率のカテゴリーごとの企業数構成比は次の様になりました (グラフ内の文字)。
30%以上の企業 (赤で色付け): 22社、3.5%
1%未満(ほぼゼロ)の企業 (緑で色付け): 118社、18.8%
上記の中間(つまり1%以上30%未満)の企業 (灰色で色付け): 487社、77.7%
(合計 627社、100%)
ちなみに、グラフにはありませんが、女性管理職比率30%の半分である15%以上の企業でも61社、9.7%にとどまります。政府が目標に掲げる2020年度30%達成は、多くの業界にとって容易ではないかもしれません。
(注:「政府は30%を断念した」という新聞報道があります(2015年12月4日「毎日新聞」)。その記事によると、「2015年12月3日、政府は第4次男女共同参画基本計画案を男女共同参画会議の専門調査会に提示し、大筋で了承された」、とあります。この基本計画では、2020年度までの目標値を民間企業の課長職で15%に下方修正した、となっています)
【まとめ】
2回にわたって、厚生労働省データベースに数値をもとに、日本の企業における女性従業員比率、女性管理職比率の話をしてきました。簡単に要約します。
(前回) 業界平均値において、女性管理職比率は、女性従業員比率と正の相関を持っている
その中で、従来女性が担ってきた「ケア」サービスや女性向けの製品を扱っている業界が上位にきている
全業界において、一般社員から管理職に昇進する確率は、男女50:50でなく、女性の方が低い
(今回) 政府が目標に掲げる30%達成は、多くの業界にとって容易ではないかもしない
30%を超えている企業が1社でも含まれている業界は、企業数ベースは全体の約4分の1しかない (30%超の企業のみではなく、業界内の企業をすべて含んだ数値)
業界横断で全体を見ると、女性管理職比率30%以上の企業は全体企業数のわずか3.5%にとどまる。15%以上としても9.7%
ジェンダーダイバーシティを推進するうえで、数値目標の設定は重要です。何より、内外に覚悟を表明することで、経営者に退路を断つ効果があります。 (正直のところ、上記分析からの示唆は、30%が妥当な値かどうかは業界によっても異なる、ということだと思います。ここでは、目標数値の妥当性についての突っ込んだ議論は行わないでおきます)
数値目標を社内に具体的に展開するやり方の一つとして、「女性比率を〇〇%であることを前提に何ができるかを考えろ」と現場に宿題を与える、というアプローチがあります。できない理由をさがすよりも、できる理由を作れ、ということです。現場の当事者に問題意識を与えてコミットを引き出す、という観点から有効なアプローチだと思います。
ただ、気をつけるべきは、数だけの議論は、質、生産性の低下を伴うリスクがあるということです。トップの旗ふりにも関わらず、現場のミドル・マネジメントがしり込みする理由は、業績を下げずに女性比率を上げる、ということがミッション・インポッシブルに思えるからです。ジェンダーダイバーシティが掛け声だけで頓挫するのは、ミドルのこうした気持ちの揺らぎが原因であることが多い、と認識しています。
いわゆる「数合せ」は危険です。Value & Visionは、数の議論が、女性リーダー育成や組織風土改革の議論とセットでなされるべきだと考えています。詳細は本サイトの「人材育成」の中にある「研修テーマ(2):ダイバーシティ&インクルージョン推進/女性リーダー育成」へのアプローチ」をご参照ください。
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2016年4月14日
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徳田亮
経営視点から斬る「女性の活躍推進企業データベース分析」業界比較②
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